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2017年3月30日 (木)

第1幕/既視感

 既視感───デジャ・ヴュという言葉をご存知だろうか。
 そう、行ったこともないはずの場所を知っているような気がしたり、初めての筈の事柄なのに経験したような気がする心理現象のことだ。みなさんも少なからず経験がおありだろう───。

 だが私はこのデジャ・ヴュが人並みはずれて多いことに気がついた。経験したような気がするどころか、ふと気づくと今見ている風景が先日見た夢そのものだった…などということが実に多いのだ。だから既視感というよりもこれは正夢と呼ぶべきかも知れない。

 だが私の場合、完全に夢の通りにはならない。夢ではけっこう危機的な状況になったり、時によっては生命の危険すら伴った結末が待っていたりするので『あっ、この状況は見覚えがある…このあとヤバイ事になる!』と身構えていると、拍子抜けするほどその結末はあっけなく何事もなく過ぎるのだ。

 まあそれが既視感というものなのだろう。

 しかしそんなハンパな正夢を見る回数はハンパではなかった。
 毎晩フラッシュバックのように何本でも見るのだ。

 医者にもかかったが仕事のストレスだとかおきまりの答えしか返ってこなかった。ヘタにかかわると入院させられかねないので、むしろこの病気(?)を前向きに考えることにし、この特技を活かして占い師をはじめた。

 偶然が異常なほど重なると、それは必然になると誰かが言っていた。

 今、私の前に座っている客は先週夢に出てきた女性だ。それを信じようと信じまいと、私は彼女を見知っていることは事実である。このあと彼女が何を私に尋ねるかも、どうなるかも知っている。だから答えも用意できているのだ。

 「いらっしゃい。大丈夫ですよ。あなたにはこのあとすぐに出逢いがあります。」

 「えっ」

 彼女は少なからず驚く。彼女が私に質問する前に私がその返事をしたからだ。
 大抵のお客はこの段階で魔法にかかる。例によって結末は当たらないことが解っているから、夢で見た途中までをいかにも占い師らしい口調で客に告げてお代を貰う。

 だがそれだけで充分なのだ。途中までなら絶対実現するし、あとは客の気が済むような当たり障りのない“吉ネタ”を添える。これで私の商売は大繁盛していた。クチコミで評判が伝わるからだ。

 おかげでたまには夢で見たことのない客も来る。
 正夢はランダムなのでこればかりはどうしようもないのだが、その時ばかりは本物の占いで適当にあしらう。その場合は当たったかどうかは判らないままだが。

 そんなある日、来るべき時が来たと思った。目の前に座ったその客はいつだったか夢の中で私を刺した人物だったのだ。当然その結末はそこで終わっている。私は死ぬのだろう。

 動転した気を押さえながら懸命に夢のタイムラインを探った。
 あの時、私はなんと言ったか。この客はどんな反応をし、どんなタイミングで私を刺すのか。どこかで夢とは違うことを言ったり、違う行動をしないとマズい。

 だが私の占いは当たる。まるでシナリオをたどるように私も客も夢の通りに台詞を吐く。
 その時はどんどん近づいてくる。

 だがふと気がついた。

 慌てていたので忘れていたが、私の占い…というか、正夢の最後ははずれるのだ。

 だったら死なずにすむのではないだろうか?
 そもそも私はなぜこの客に刺されるハメになるのか?いつもならビデオの早送りのような調子で先が読めるのに、どうも今日ばかりはタイムラインが現実とシンクロしてしまって先手が打てない。

 「そりゃそうですよ」私の心理を読んだように唐突に客が言った。「それが本当なんです。あなたはズレていたんですよ…今までが。いや、たまにおられるんです。時間軸に沿って生きていない人が」

 何を言ってるんだ!?この客は?いったい何者なんだ?

 「大丈夫。近辺は局のものが調整を終えました。あとはあなた自信の調整だけです。そんなに怯えないでください。あなたに罪はないんです。一種の事故なんですから。でもそのせいで世界の未来が変わってしまうのでは大問題でしょう?」

 「既視感。正夢。そりゃ結果通りになるはずがない。だってそれは夢ではないんですよ。実際に起こったことの記憶なんです。だけどあなたたちはそれを回避するために無意識に現在をリセットして過去にジャンプしてしまう。だから本当はあなた、何度か死んでいる筈なんですよ。まあだからといってあなたの存在を消すわけにはいきませんから、今後はこんなことがないように“羽根切り”させて貰うだけです。では」

 客は私の頭に棒のような物の先端を当てた。それきり意識は途切れた。直前、客は私に言った。

 「もうリセットは効きません。これからは生命は大切になさることです」

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───おわり───

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